自閉スペクトラム症の子どもや大人の人を数多く診察した臨床家であれば,それは十人十色,百人百色であることを実感しているであろう。そうした子どもたちの心的世界は時にほとんど,詳細に検討すれば僅か一部であっても著しい混乱した心的世界を垣間見ることができる。子どもの時から継続的に診療していくと,この僅かな部分は思春期になって一気に表面化して,明らかな精神病として発症することもある。現在,子どもの臨床に関わっている多くの専門家はこうした精神病世界を知らない,あるいは無視しているように思う。この無知と否認は子どもが愚かな無邪気な存在であり,広いプレイルームで身体を動かして遊べばよくなるという子どものこころの世界を脱価値化した妄信を基盤としている。本書は真摯に子どもの