昨今のこどもをめぐる養育環境は著しく劣化し,その影響は深刻なものです。フロイトはトラウマを主に心的現実として精神分析を展開し,大きな臨床,理論的な発展を為しました。しかし,時代の変遷とともに,外的現実としての養育環境についても客観視し,その直接的な影響を評価しなければならなくなってきました。そこで,本年度は被虐待体験,トラウマがこどもから成人までの心的世界に及ぶ影響,その精神分析的アプローチを取り上げます。
被虐待体験やトラウマを経験すると,こころの発達が阻害され,定型的な対象関係の発達である抑うつポジションに至ることはなく,過酷な環境を生き抜くために,病的な対象関係を発達させてしまうことになります。こうした病的な対象関係はパーソナリティの一部となり,その悪影響は計り知れません。精神分析はこうした被虐待体験やトラウマの影響を受けたパーソナリティの詳細を明らかにし,適切なアプローチを可能なものとするでしょう。
2023年度は,現代の思春期心性についてユング派の立場から考察を深めておられる岩宮恵子先生,地域支援やマネージメントなどの力動的アプローチを探求されている岩倉拓先生をお迎えします。本セミナーは,ポスト・クライン派精神分析の視点を中核に起きつつ,それに加え,時代の流れの中で重要となりつつある視点も盛り込み,共に学び合う場を作りたいと考えています。
今回も,会場参加とZoom参加のハイブリット開催をいたします。これまで参加できなかった関東以外の臨床家の方々のご参加も歓迎いたします。
主催:こども・思春期精神分析研究会 木部 則雄
※本セミナーは、臨床心理士資格の更新に必要なポイント申請を行っています。
◆グループ・スーパーヴィジョン ※グループ・スーパーヴィジョンはオンラインでは行いません。
セミナー開催日の午前中(9時30分〜12時)にグループ・スーパーヴィジョン(定員12名)を行っています。
*参加資格:午後に行われる「子ども・思春期精神分析セミナー」の参加者
事例を提示でき、こどもの精神分析的心理療法の技術を身につけたい方
※提示するケースは精神分析的心理療法を実践したケースでなくても構いません。
*スーパーヴァイザー:
木部則雄(白百合女子大学人間総合学部発達心理学科/こども・思春期メンタルクリニック)
吉沢伸一(ファミリーメンタルクリニックまつたに)
*場所: こども・思春期メンタルクリニック(セミナー会場近く)
*参加費: 33,000円(消費税を含む)
お申し込みの際に「お問い合わせ」欄に参加希望の旨をご記入ください。
※午前のグループ・スーパーヴィジョンに参加を希望され、午後はZOOMでの参加を希望される場合は、間の時間が1時間しかありませんのでご注意ください。
日程 | 講師 | 司会 | 事例提示 | |
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第1回 | 5月28日 | 木部 則雄 | 吉沢 伸一 | 澁木 尚子 |
第2回 | 7月23日 | 岩倉 拓 | 木部 則雄 | 大垣 怜子 |
第3回 | 9月24日 | 岩宮 恵子 | 木部 則雄 | 山崎 孝明 |
第4回 | 11月26日 | 飛谷 渉 | 木部 則雄 | 菊地 育子 |
第5回 | 1月28日 | 脇谷 順子 | 木部 則雄 | 坂口 正浩 |
第6回 | 3月24日 | 平井 正三 | 木部 則雄 | 中岡 裕美 |
岩倉 拓 (あざみ野心理オフィス)
岩宮 恵子 (島根大学人間科学部心理学コース/島根大学こころとそだちの相談センター)
木部 則雄 (白百合女子大学人間総合学部発達心理学科/こども・思春期メンタルクリニック)
飛谷 渉 (大阪教育大学保健センター)
平井 正三 (御池心理療法センター/認定NPO法人子どもの心理療法支援会)
脇谷 順子 (杏林大学保健学部臨床心理学科/認定NPO法人子どもの心理療法支援会)
吉沢 伸一 (ファミリーメンタルクリニックまつたに)
大垣 怜子 (公立学校スクールカウンセラー)
菊地 育子 (こども・思春期メンタルクリニック)
澁木 尚子 (久我山病院小児科)
中岡 裕美 (新百合ヶ丘こころのクリニック)
森田知絵子 (カウンセリングルーム9B)
山崎 孝明 (こども・思春期メンタルクリニック)
第1回
▷ 「青年期のデプレッションへの短期精神分析療法―CBTとの比較実証研究と実践マニュアル」(2022)木部則雄監訳,岩崎学術出版社.
▷ 「こころの発達と精神分析-現代藝術・社会を読み解く」(2019)木部則雄著,金剛出版.
▷ 「精神分析/精神科・小児科臨床セミナー総論:精神分析的アセスメントとプロセス」(2019)木部則雄編,福村出版.
▷ 「こどもの精神分析Ⅰ・Ⅱ」(2007・2012)木部則雄著,岩崎学術出版社.
第2回
▷ 「パーソナリティ障害における逆転移」岩倉拓,In,「パーソナリティ障害の精神分析的アプローチ」(2019)松木邦裕編,金剛出版.
▷ 「治療0期の耕しと治水」岩倉拓,In,「心理臨床家の成長」(2013)乾吉佑編,金剛出版.
▷ 「事例で学ぶアセスメントとマネジメント―こころを考える臨床実践―」(2014)藤山直樹・中村留貴子監修,岩崎学術出版社.
▷ 「日常臨床に活かす精神分析2:現場で起こるさまざまな連携」(2022)祖父江典人・細澤仁編,誠信書房.
第3回
▷ 「生きにくい子どもたち—カウンセリング日誌から」(2009)岩宮恵子著,岩波現代文庫.
▷ 「好きなのにはワケがある—宮崎アニメと思春期のこころ」(2013)岩宮恵子著,ちくまプリマー新書.
▷ 「臨床で抱えていくもの—変容の臨界点での感覚から」(2022)岩宮恵子,精神療法 増刊号第9号,金剛出版.
▷ 「心理療法と異界」(2022)岩宮恵子,精神療法vol48,金剛出版.
第4回
▷ 「エディプス・マターズ―現代クライン派臨床理論から考える心のインフラ」飛谷渉,In,「思想」2021年8月号.
▷ 「連続講義 精神分析家の生涯と理論」(2018)大阪精神分析セミナー運営委員会編,岩崎学術出版社.
▷ 「精神分析たとえ話:タヴィストック・メモワール」(2016)飛谷渉著,誠信書房.
▷ 「新釈メラニークライン」(2014)ミーラ・リカーマン著,飛谷渉訳,岩崎学術出版社.
第5回
▷ 「子どもと青年の精神分析的心理療法のアセスメント」(2021)平井正三・脇谷順子編,誠信書房.
▷ 「親になっていくこと、セラピストになっていくこと―タビストック方式乳幼児観察が支えるのー」(2020)脇谷順子.In,「こころに寄り添うということ:子どもと家族の成長を支える心理臨床」松谷克彦・吉沢伸一編,金剛出版.
▷ 「子どもと青年の心理療法における親とのワーク」(2019)津田真知子・脇谷順子監訳,金剛出版.
▷ 「乳幼児観察入門」(2019)木部則雄・鈴木龍・脇谷順子監訳,誠信書房.
第6回
▷ 「意識性の臨床科学としての精神分析―ポスト・クライン派の視座」(2020)平井正三著,金剛出版.
▷ 「児童養護施設の子どもへの精神分析的心理療法」(2018)平井正三・西村理晃編,誠信書房.
▷ 「自閉症スペクトラムの臨床―大人と子どもへの精神分析的アプローチ」(2016)平井正三・世良洋監訳,岩崎学術出版社.
▷ 「新訂増補 子どもの精神分析的心理療法の経験―タビストック・クリニックの訓練」(2015)平井正三著,金剛出版.
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